序に代えて
これは、私自身を律するための戒めである
私は、決して強いリーダーではない。
一人の英雄の力に依存する組織は、その英雄が去った瞬間に崩壊する。
私が目指すのは、特定の誰かの犠牲やカリスマ性によって支えられる地域ではない。
誰もが無理なく役割を果たし、静かに、健やかに循環し続ける「自走する地域」である。
この兵法は、他者を導くためだけの書ではない。
権限を持つ者が、慢心せぬよう
都合のよい判断に逃げぬよう
そして、いつでも「人を守る側」に立ち続けるための私自身の覚悟の記録である。
第一部 組織の理
仕組みを整える
第一条 仕組みに託し、人を自由にせよ【制度自走】
自治会が回る理由が「会長が優秀だから」であってはならない。
人が替わっても自然に動く手順と判断基準を共有すること。
それは冷たい管理ではなく、関わる人を守るための優しさである。
仕組みがあるからこそ、人は安心して自由になれる。
第二条 情報の風通しを、組織の血流とせよ【情報循環】
情報は、組織の血液である。
滞れば、不信という病が生まれる。
良いことも悪いことも、速やかに共有せよ。
ITは効率化のためではない。
人と向き合う余白を生み出すための、現代の武器である。
第三条 信頼を「公」の財産とせよ【誠実蓄積】
説明を尽くし、記録を残す。
この地味な積み重ねだけが、信頼を生む。
信頼は、自治会最大の資産である。
そしてそれは、リーダー個人の所有物ではない。
地域全体で共有される、公の財産である。
第二部 決断の理
変化を創る
第四条 十年の計を語り、今を照らせ【十年遠望】
目の前の課題に追われるだけでは、地域は疲弊する。
十年後、この町は子どもたちが「帰ってきたい場所」であるか。
その未来から逆算して、今日の判断を下せ。
遠くを照らす光こそが、今進むべき道を決める。
第五条 七分の確信で、次の一手を【七分即断】
地域の運営には、常に判断が伴う。
そのたびに「完璧な正解」を待っていたら、機を逃す。
七分の確信があれば、踏み出せ。
残る三分は、走りながら皆で補えばよい。
迷いながら進む姿勢が、地域のしなやかさとなる。
第六条 過去への執着を捨て、未来を拓け【勇断撤収】
「今まで通り」という言葉は、時に呪縛となる。
不要となった慣習や行事を、自らの代で終わらせよ。
やめる決断は、始める決断よりも重い。
だがそれこそが、リーダーに課された最大の責務である。
第三部 己の理
器を磨く
第七条 覚悟を持って、理想を語れ【覚悟宣言】
理想を語ることは、責任を引き受けることだ。
批判の矢面に立つことから逃げるな。
「ついてこい」と命じるな。
「この人は逃げない」と思われる存在であれ。
第八条 公の正義をもって、情を昇華せよ【公正無私】
親しき者にも、等しくルールを適用せよ。
情に流されぬ公平さは、冷酷ではない。
それは、組織全体を守るための深い慈愛である。
常に、公の視点に立て。
第九条 学びを止めず、広い視野を持て【不断研鑽】
地域課題は複雑である。
防災、福祉、DX。いずれも一朝一夕では解けない。
専門家に丸投げするな。
自ら学び、対等に議論できる力を持て。
学びを止めた瞬間、リーダーは腐敗する。
第四部 共生と継承の理
未来へ繋ぐ
第十条 多層的な対話で、孤立を防げ【孤立遮断】
声なき声は、必ず存在する。
デジタルとアナログ、一対一と集団。
対話の窓を重ね、誰一人として取り残すな。
包摂の力こそが、地域の底力である。
第十一条 和を尊び、論を尽くして一致を目指せ【和而不同】
和とは、同調ではない。
異論を出し切り、徹底的に論じよ。
決まったら、迷わず進め。
違いを抱えたまま、同じ方向を見る。
それが、最も強靭な共同体である。
第十二条 次代の席を空け、成長を待て【次代継承】
権限にしがみつくな。
潔く退き、静かに見守れ。
失敗を許す文化が、次の背骨を育てる。
それが、リーダーの最後の仕事である。
結び
地域運営に、完成はない。
時代が変われば、この兵法もまた書き換えられるべきである。
守るべきは、形ではない。
その根底に流れる「人を守る」という意志である。
変化を恐れず、停滞を遠ざける。
この美しい白鳥台が、次の世代にとっても誇りであり続けるよう、
私は、歩みを止めない。
白鳥台自治会長 畑 史之
